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東京高等裁判所 昭和54年(行コ)17号 判決

東京都江戸川区松島一丁目二九番五号

控訴人

内山勇吉

右訴訟代理人弁護士

青柳孝夫

真部勉

東京都江戸川区平井一丁目一六番一一号

被控訴人

江戸川税務署長

蔵坪達男

右指定代理人

櫻井登美雄

塚本晃康

石津佶延

屋敷一男

山本高志

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

一  控訴人は、「1 原判決を取り消す。2 被控訴人が控訴人の昭和三八年分及び昭和三九年分の所得税について昭和四一年一二月一七日付でした再更正処分は、昭和三八年分につき昭和四三年三月二一日付裁決による一部取消後の所得金額金一九四万六八八五円のうち控訴人の修正申告額一一〇万〇五五五円を超える部分、昭和三九年分につき同裁決による一部取消後の所得金額金四二万五四八六円のうち控訴人の確定申告額金一〇四万七五〇〇円を超える部分については、これを取り消す。3 訴訟費用は第一、第二とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め(右2は、原審における請求の趣旨を明確にしたものである。)、被控訴人は控訴棄却の判決を求めた。

二  当事者双方の主張及び証拠の関係は、次のとおり補正・附加するほかは、原判決事実摘示のとおりであるから、これをここに引用する。

(主張)

1  控訴人

(一) 原判決五枚目裏六行目に「昭和三七年に」とあるのを削除し、同八行目に「建築した建物を、」とあるのを「昭和三七年中に建築し、引き渡した建物六棟及び昭和三八年中に建築し、引き渡した建物四棟、合計一〇棟のうち九棟を、」と改める。

(二) 原判決七枚目裏一〇行目から同八枚目表末行までを次のとおり改める。

「4 同番号11ないし16について。

控訴人は昭和三八年八月ころ東京都江戸川区松島二丁目三三番八号(旧西小松川二丁目二〇五番地)の土地一六八坪余を、地主大西重三郎から、同土地上に建築予定の建物の所有者に借地権を直ちに譲渡することの了解を得た上で借地し、そのうち西側約半分五区画の借地権を松屋不動産に譲渡し、松屋不動産からの注文により、昭和三九年中にそのうちの三区画に三棟の建物を建築した。そして、松屋不動産が右三棟を同年中に同番号11ないし13の各売上先に借地権付き建物として売却したのである。

また、控訴人は、右一六八坪余の東側半分中三区画の借地権を同番号14ないし16の各売上先黒沢武ほか二名に譲渡し、同人らからの注文により、昭和三九年中にその地上に三棟の建物を建築した。

控訴人は、右各借地権譲渡にあたり、自らが地主大西重三郎に支払うべき借地権設定料及び地代並びに埋立費用を松屋不動産及び黒沢武ほか二名に負担してもらっただけであり、右譲渡によって全く利得していない。したがって、控訴人の収入としては、右11ないし13の建物については、松屋不動産から支払を受けた請負工事代金合計金二一二万三〇〇〇円、右14ないし16の建物については、黒沢武ほか二名から支払を受けた原判決別表三(一)の控訴人主張額欄記載のとおりの請負工事代金のみを計上すべきすじあいであり、右各建物のいずれについても控訴人の収入に借地権譲渡代金を加えるのは不当である。

(三) 松屋不動産関係の建物に係る収入について、以下のとおり主張を補充する。

原判決別表二の(一)番号6ないし14、同別表三の(一)番号4ないし9、11ないし13の各建物は、すべて控訴人が売却したものではなく、松屋不動産が建築主として控訴人に注文して建築させ、その引渡しを受け、控訴人に請負工事代金を支払い、自ら売主となって各売上先に売却したものである。

控訴人は、建築工事を完了した建物を直ちに松屋不動産に引き渡し、松屋不動産は、買手との間に売買契約を締結し、契約書を取り交わすが、代金が支払われると、税金対策上自らが契約当事者として表面に出ないように、買手に対し控訴人名義の建築見積書や建築代金領収証を渡し、右売買契約書を回収するという工作を行っていた。

右各建物に係る控訴人の収入は、建物を完成して松屋不動産に引き渡した日(特にあらたまった引渡手続は行われず、完成日が即引渡日となるのが実情であった。)の属する年度の収入に計上すべきものであるところ、右引渡日は、松屋不動産が買手と売買契約を締結した日、更には買手が代金を完済して建物の引渡しを受け、登記を了した日よりもはるかに前である。被控訴人が後記主張において指摘する右各建物の表示登記の原因日付は、前記のような松屋不動産の行った工作の関係で、売買代金完済引渡日が新築年月日として表示され、真実の建物完成時をあらわしていない。

(四) 原判決別表二の(一)番号15の建築工事は、増築・改築であり、施工箇所が数箇所に及んでいたから、昭和三七年中に支払を受けた分はその時点までに完成し引き渡した分の請負工事代金に相当するものであり、したがってこれを分離して同年度の収入と認めるべきである。

2  被控訴人

控訴人は建設業を営んでいた者であるところ、一般的に建設業者においては、たな卸商品として販売目的に建物を建築する場合のほか、顧客との請負契約に基づき建築するいわゆる注文建築の場合があり、右各場合の収入金額の計上時期は、所得税法の採用する権利確定主義に照らし、たな卸商品たる建物の販売による収入金額については、収入すべき金額の基礎となった契約の効力発生の時又は建物の引渡しがあった日、請負による収入金額については、建物の全部を完成し注文者に引き渡した日によることとなる(旧所得税法基本通達二二七九、現行所得税基本通達三六-八参照)。

そして、被控訴人は、控訴人の事業収入につき、右に述べた収入金額の計上時期の処理基準に従い適正に処理したものである。

すなわち、(イ)原判決別表二の(一)番号3(松島不動産関係)、6ないし14、(ロ)同別表三の(一)番号4ないし9、11ないし13(以上松屋不動産関係)の各建物は、控訴人が、右(イ)については昭和三八年中に、右(ロ)については昭和三九年中に自ら各売上先に売却し、引渡しを行ったのであるから、前記の処理基準に照らし、各売買代金収入を右各年分の収入金額として計上すべきである。

また、仮に、控訴人主張のとおり右各建物は控訴人が松島不動産又は松屋不動産から建築を請負ったものであるとしても、右各建物の表示登記の受付年月日及び特にその原因たる新築の年月日がそれぞれ昭和三八年中又は昭和三九年中となっていること(登記簿に原因日付として記載された年月日は真実に合致するとの少なくとも事実上の推定を受けるものであるところ、本件において、表示登記の原因日付に関する右推定を覆して右各建物が右日付より早い時期に建築されたとするには、右日付以前にいずれかの建物が完成していた可能性があるというだけでは足りず、具体的に個々の建物について、例えば固定資産課税台帳に登録された建物の新築年月日や住民登録上の転入年月日等が表示登記の原因日付より先行していることなどの具体的反証をあげる必要がある。しかるに、本件においては、右反証は全く存しない。)、右各建物の請負契約には、完成・引渡しについての定めがなく、実態は松島不動産又は松屋不動産を通さず直接控訴人から各売上先に建物が引き渡されていたこと、右各建物は、予め新聞広告等によって買手を見つけ、完成と同時か、完成後極めて短期間のうちに売却されていたことなどからすれば、前記(イ)については昭和三八年中、同(ロ)については昭和三九年中に完成され、松島不動産又は松屋不動産に対する引渡しが行われたものと認定するのが合理的であるから、控訴人の請負工事代金収入の計上時期は、前記処理基準により、前同様、前記(イ)が昭和三八年、同(ロ)が昭和三九年となるものである。

(証拠)

1  控訴人

甲第三三、語三四号証、同第三五号証の一ないし三を提出し、当審における証人川上登也、同郡司信夫の各証言、控訴人本人尋問の結果を援用し、後記乙号各証の成立はすべて認めると述べた。

2  被控訴人

乙第四九号証の一ないし三、同第五〇ないし第五三号証の各一、二、同第五四号証の一ないし三、同第五五ないし第五八号証の各一、二、同第五九、第六〇号証、同第六一ないし第六六号証の各一、二を提出し、甲第三三号証の成立は認めるが、同第三四号証、同第三五号証の一ないし三の原本の存在及び成立は知らないと述べた。

理由

一  当裁判所も、控訴人の本訴請求は失当としてこれを棄却すべきものと判断する。その理由は、次のとおり補正するほかは、原判決の理由説示と同一であるから、これをここに引用する。

1  原判決一七枚目裏二行目冒頭から同三行目の「同一のもの)、」までを削除し、同一八枚目表四行目の「右建物は」から同七行目末尾までを「控訴人は、右建物は控訴人が昭和三七年に松島不動産からの注文により建築し、松島不動産が昭和三八年に太田英夫に売却したものであると主張し、原審(第二、三回)及び当審における控訴人本人の供述はこれにそうているが、右供述は、前掲各証拠に照らしてにわかに採用することができず、甲第一七号証(同第二七号証も同一のもの)は必ずしも右認定に反するものではなく、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。」と改める。

2  原判決一八枚目裏二行目に「原告本人尋問の結果(第二回)」とあるのを「原審(第二回)及び当審における控訴人本人尋問の結果と改め、同七行目に「あるが、」とある次に「右本人尋問の結果によっては、」と、同八行目に「ことを」とある次に「認めるに十分でなく、他にこれを」とそれぞれ加える。

3  原判決一八枚目裏九行目から同二一枚目裏四行目までを次のとおり改める。

「(四)番号6ないし14

(1)  成立に争いのない乙第四、第五号証の各一、二、同第七号証の一ないし三、同第八号証、同第一一号証、同第四八号証の二、三の各二、同第五〇ないし第五八号証の各一、弁論の全趣旨により成立の認められる甲第一四号証の一、二(原本の存在と成立を含む。)、同第一五号証、乙第四八号証の一、同号証の三の一、同号証の四、五(官公署作成部分の成立は争いがない。)、原審における控訴人本人尋問の結果(第三回)によって成立の認められる乙第四八号証の二の一(控訴人の署名押印部分の成立は争いがない。)、原審証人藤山政枝の証言により成立の認められる甲第一六号証、乙第九号証、原審証人嶋村喜四郎の証言により成立の認められる甲第二〇号証、原審証人小沢邦重の証言により成立の認められる乙第六号証、同第一〇号証、前掲乙第四六号証、原審証人小沢邦重、同菅野春雄、同嶋村喜四郎、同柴山一男、同藤山政枝、同塚本昭、同山岡良江、同国井シサヱ、同田中さき、同田中正次、当審証人郡司信夫の各証言、原審(第一ないし第三回)及び当審における控訴人本人尋問の結果(ただし、後記採用しない部分を除く。)並びに弁論の全趣旨を総合すれば、以下の事実を認めることができる。

(イ) 控訴人は、昭和三三年ころから建築業を営み、不動産業者の松屋不動産こと海見勝人とは、昭和三五、六年ころから仕事上のつながりをもつようになった。

松屋不動産は、昭和三七年、折からの建売住宅ブームに乗って、田中さき所有の東京都江戸川区本一色六番地の土地上に、控訴人に注文して建物を複数建築し、建売住宅として売り出すことを計画し、敷地の売却につき右田中の了解を得た。そして、控訴人は、松屋不動産の注文により、昭和三七年から昭和三八年にかけて、同土地上に建売住宅一〇棟を建築する工事をした。松屋不動産の海見や従業員は、工事中時折り現場に来て控訴人やその雇傭する大工等に必要な指図をしていた。

(ロ) 松屋不動産は、いずれも昭和三八年中に、控訴人から完成した建物の引渡しを受け、直ちに右一〇棟のうち九棟を前記番号6ないし14の各売上先に売却し、同年中にその引渡しを了した。

敷地については、松屋不動産は、田中から一旦これを買い受けて、右各建物とあわせて各売上先に売却し、後記代金完済時に中間省略により田中から各売上先に直接所有権移転登記が経由された。

(ハ) 右九棟の各建物について、各売上先が支払うべき代金額は、建物の分と敷地に関する分とを一括して定められ、各売上先は、両者を区別することなく松屋不動産に支払をし、これを完済した時点で、建物について表示登記をした上、引き続き所有権保存登記を了した。右登記手続に関しては、一切を松屋不動産が手配し、その際、控訴人は、松屋不動産の指示により、売上先からの注文で建物の建築工事を行い、これを完了して売上先に引き渡した旨の工事完了引渡証明書、売上先に宛てた代金領収証や建築見積書(これらに記載された金額は、前記のように土地、建物を一括した売買代金のうちの建物の分に相当する額を下回っており、控訴人が松屋不動産から支払を受けるべき請負工事代金額と同額ないし若干これを下回る額となっている。)を発行し、これらの書類を用いて右登記がされた。

右領収証や建築見積書は、松屋不動産が、右表示登記の申請に用いるためだけでなく、自らの税金対策として、各建物は控訴人が各売上先からの注文により建築したものであるとの形式を整え、松屋不動産の名前を表面に出さないようにする目的で、控訴人に発行させたものであり、松屋不動産は、これを各売上先に渡し、先に渡してあった松屋不動産名義の売買契約書や領収証を回収し、また、一部の売上先については、売買代金の一部を仲介手数料として受領したことにしてその旨の領収証を発行するという工作をした例もある。

(ニ) 松屋不動産から控訴人への請負工事代金の支払は、着工時ないし工事進行中に若干の内金の支払がされたほかは、各建物が完成後売却されてからなされる約束になっており、そのとおり履行された。その額は、前記番号6ないし14の被控訴人主張額欄記載の金額(この額は、控訴人が松屋不動産の指示により各売上先宛に発行した前記領収証や建築見積書記載の金額によっている。)を下回らない額である。

(ホ) なお、右九棟の各建物の表示登記の受付年月日及び同登記の原因日付である新築年月日は、次のとおりである。

建物 表示登記受付年月日 新築年月日

番号6 38・5・23 38・4・9

同7 38・5・15 38・4・10

同8 38・5・30 38・5・1

同9 38・6・12 38・6・10

同10 38・6・15 38・6・10

同11 38・7・24 38・7・17

同12 38・7・26 38・7・12

同13 38・7・12 38・6・25

同14 40・3・10 38・1・23

(2)  以上認定した事実によれば、右九棟の各建物は、控訴人が自ら建築し所有するものを松屋不動産を仲介人として前記各売上先に売却した、というのではなく、控訴人が松屋不動産からその建築を請負い、これを完成して松屋不動産に引き渡し、松屋不動産が自らの所有する建物として各売上先に売却したものであり、したがって、控訴人の右各建物に係る収入は、松屋不動産から支払を受けるべき請負工事代金であるといわなければならない。そうすると、控訴人の事業収入の算定にあたっては、右請負工事代金は、控訴人が右各建物を松屋不動産に引き渡した時期の属する年度の収入に計上すべきものと解されるところ、前記のとおり、右引渡しの時期は、いずれの建物についても昭和三八年中であると認められる。

控訴人は、前記(1)(イ)の一〇棟のうち六棟は昭和三七年中に完成し、松屋不動産に引き渡したものであり、昭和三八年中に完成し、引き渡したのは四棟にすぎない旨主張し、これにそう書証として、甲第二号証の一ないし三、同第五号証の一、二、同第六号証、同第一九号証の一ないし四を提出し、原審(第一ないし第三回)及び当審において同旨の供述をする(なお、右四棟が前記番号6ないし14のいずれに該当するかを特定することはできないと言う。)。しかし、原審における控訴人尋問の結果(第一回)によれば、控訴人は、本訴提起前の税務当局の調査の段階において右書証を担当係官に全く提示していないこと、記録によれば、本訴においてこれらを書証として提出したのも、訴え提起後相当の年月を経てからであること及び右各書証の形式、体裁等に徴すると、右各書証については、その作成時期ないし経過につき疑問があり、これらにその記載内容のとおりの証明力を認めることはできず、前記控訴人本人の供述もまた、前掲各証拠に照らし、にわかに採用することができない。そして、そのほかに、前記番号6ないし14の各建物の控訴人から松屋不動産への引渡時期に関する前記認定を左右するに足りる証拠はない。

(3)  そうすると、右番号6ないし14の被控訴人主張額欄記載の金額は、控訴人の昭和三八年分の収入に計上すべきである。

4  原判決二二枚目裏五行目に「認められる。」とある次に「当審における控訴人本人の供述中、右認定に反する部分は、右各証拠に照らしてにわかに採用しがたく、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。」と加える。

5  原判決二六枚目裏四行目から同二八枚目裏五行目までを次のとおり改める。

「(二) 番号4ないし9

(1)  成立に争いのない乙第一三号証、同第一七、第一八号証の各一、二、同第六〇号証、同第六一ないし第六五号証の各一、弁論の全趣旨により成立の認められる甲第一八号証、原審証人小沢邦重の証言により成立の認められる乙第一四ないし第一六号証、前掲乙第四六号証、原審証人小沢邦重、同菅野春雄、同簗瀬準治郎、同河合和子、同吉野弘二、同小西キヨ子、同三田善司、同田中正次、当審証人郡司信夫の各証言、原審(第一ないし第三回)及び当審における控訴人本人尋問の結果(ただし、後記採用しない部分を除く。)並びに弁論の全趣旨を総合すれば、以下の事実を認めることができる。

(イ) 松屋不動産は、前記三、1、(四)に認定したところに引き続き、昭和三八年、三田善司所有の東京都江戸川区本一色六番地の土地上及び大西松雄所有の同区松島二丁目三二番二号(旧西小松川二丁目二一一番地)の土地上に、控訴人に注文して建物を複数建築し、建売住宅として売り出すことを計画し、右三田からは敷地の売却につき、右大西からは建物の各買受人に敷地の借地権を設定することにつきそれぞれ了解を得た。そして、控訴人は、松島不動産の注文により、昭和三八年から昭和三九年にかけて、前者の土地上に建売住宅四棟、後者の土地上に同住宅二棟を建築する工事をした。

(ロ) 松屋不動産は、いずれも昭和三九年中に控訴人から完成した建物の引渡しを受け、直ちに右四棟を前記番号4ないし7の各売上先に、右二棟を同8、9の各売上先に売却し、同年中にその引渡しを了した。

敷地については、松屋不動産は、三田からはこれを買い受けて、各建物とあわせて各売上先に売却し、また、大西と各売上先との間の借地契約を斡旋し、三田の分については後出の代金完済時に中間省略により各売上先に直接所有権移転登記が経由された。

(ハ) 右六棟の各建物についても、原判決別表二の(一)番号6ないし14の各建物について先に三、1、(四)の(1)、(ハ)において認定したのと同様の事実関係が認められる。

(ニ) 松屋不動産から控訴人への請負工事代金の支払は、着工時ないし工事進行中に若干の内金の支払がされたほかは、各建物が完成後売却されてからなされる約束になっており、そのとおり履行された。その額は、前記番号4ないし9の被控訴人主張額欄記載の金額(この額は、控訴人が松屋不動産の指示により各売上先宛に発行した前出の領収証や建築見積書記載の金額によっている。)を下回らない額である。

(ホ) なお、右六棟の各建物表示登記の受付年月日及び同登記の原因日付である新築年月日は、次のとおりである。

建物 表示登記受付年月日 新築年月日

番号4 39・2・11 39・2・5

同5 39・2・21 39・2・15

同6 39・3・4 39・3・1

同7 39・5・2 39・4・28

同8 39・5・10 39・4・20

同9 39・7・16 39・7・11

(2)  以上認定した事実によれば、右六棟の各建物は、原判決別表二の(一)番号6ないし14の各建物と同様、控訴人が松屋不動産からその建築を請負い、これを完成して松屋不動産に引き渡し、松屋不動産が自らの所有する建物として各売上先に売却したものであり、したがって、控訴人の右六棟の各建物に係る収入は、松屋不動産から支払を受けるべき請負工事代金であるといわなければならない。そうすると、控訴人の右収入の帰属年度を決するにあたっては、控訴人が右各建物を松屋不動産に引き渡した時期を検討すべきところ、前記のとおり、右時期は、いずれの建物についても昭和三九年中であると認められる。

控訴人は、右六棟の各建物はすべて昭和三八年中に完成し、松屋不動産に引き渡したものである旨主張し、これにそう書証として、甲第三号証の一ないし三、同第四号証の一、二、同第一九号証の五ないし七を提出し、原審(第一ないし第三回)及び当審において同旨の供述をするが、先に三、1、(四)の(2)において甲第二号証の一ないし三等の書証について判示したのと同一の理由により、右各書証にその記載内容のとおりの証明力を認めることはできず、右控訴人本人の供述もまた、前掲各証拠に照らし、にわかに採用することができない。そして、そのほかに右六棟の各建物の控訴人から松屋不動産への引渡時期に関する前記認定を左右するに足りる証拠はない。

(3)  そうすると、前記番号4ないし9の被控訴人主張額欄記載の金額は、控訴人の昭和三九年分の収入に計上すべきである。」

6  原判決二九枚目表三行目及び同三一枚目裏一〇、一一行目に「原告本人尋問の結果(第二回)」とあるのをいずれも「原審(第二回)及び当審における控訴人本人尋問の結果」と改め、同二九枚目表四行目末尾に「なお、控訴人は、被控訴人が本訴の当初において右認定の収入が昭和三八年分の売上収入であることを認めていたのであるから、その主張を変更することは許されないというが、右主張の変更をもって自白の撤回にあたるものということはできないし、記録にあらわれた本件訴訟の経過に照らし、そのほかにも右主張の変更を許されないものとすべき理由は見出されない。」と加える。

7  原判決二九枚目表五行目から同三〇枚目裏一〇行目までを次のとおり改める。

「(四) 番号11ないし16

(1)  成立に争いのない乙第二〇、第二一号証の各一、二、同第四一号証、原審証人小沢邦重の証言により成立の認められる乙第一九号証、原審証人大西重三郎、同海老沢洋の各証言により成立の認められる乙第三四ないし第四〇号証、原審証人小沢邦重、同菅野春雄、同大西重三郎、同海老沢洋、同松田桂至、同新居田章の各証言、原審(第一ないし第三回)及び当審における控訴人本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨を総合すれば、以下の事実を認めることができ、この認定を左右すべき証拠はない。

(イ) 控訴人は、昭和三八年八月ころ大西重三郎の所有する東京都江戸川区松島二丁目三三番八号(旧西小松川二丁目二〇五番地)の土地一六八坪余を賃借し(以上の事実は当事者間に争いがない。)、これを埋立整地した上、昭和三九年中に同土地の西側半分五区画の借地権を松屋不動産に譲渡し、松屋不動産からの注文により、右五区画のうちの三区画に建売住宅三棟を建築する工事をし、同年中にこれを完成し、松屋不動産に引き渡した。そして、松屋不動産は、同年中に右三棟とその敷地の借地権を前記番号11ないし13の各売上先に売却した。松屋不動産は、前記三、1、(四)の(1)、(ハ)に認定したところと同様、右三棟の各建物についても、表示登記の申請に用いるためと自らの税金対策のために、控訴人に各売上先宛の代金領収証等を発行させており、これに記載された金額は、控訴人が松屋不動産から支払を受けるべき請負工事代金額と同額ないし若干これを下回る額となっている。

また、控訴人は、昭和三九年中に右一六八坪余の東側半分のうちの三区画の借地権をかねてから知合いの前記番号14ないし16の各売上先黒沢武ほか二名に譲渡し、同人らからの注文により、三棟の建物を建築する工事をし、同年中にこれを完成し、同人らに引き渡した。なお、右番号11ないし16の各売上先が借地権を取得した敷地の坪数は、原判決事実摘示第六被控訴人の再反論二、4掲記の一覧表記載のとおりである(合計九七・六二坪)。

(ロ) 控訴人が松屋不動産から注文を受けた右番号11ないし13の各建物の請負工事代金額は、右一覧表中該当の「建物」欄記載の金額(この額は、控訴人が松屋不動産の指示により発行した前記領収証等記載の金額によっている。)を下回らない額であり、黒沢武ほか二名から注文を受けた右番号14ないし16の各建物の請負工事代金額は、右一覧表中該当の「建物」欄記載の金額である(以上の合計は金四〇八万九七四〇円)。

(2)  ところで、控訴人は、後記2の(四)において認定するとおり、大西重三郎に対し、合計金二九二万八六〇〇円を超えない額の権利金及び金四万〇六二七円の地代を各支払い、埋立費用として金一二万二〇二五円を負担し、以上合計金三〇九万一二五二円を超えない額を出捐しているところ、原審(第二回)及び当審における控訴人本人尋問の結果によれば、控訴人は、松屋不動産、黒沢武ほか二名に借地権を譲渡するについて、同人らから少なくとも右出捐額と同額の対価を取得したことが認められるが、控訴人が同人らからそれ以上にいかなる額の対価を取得したかについては、これを認定するに十分な証拠がない。原審証人松田桂至(右番号12の売上先)、同新居田章(右番号13の売上先)は、建物と借地権とをあわせた代金額がそれぞれ金一六〇万円、金一五〇万円であったと証言し(右新居田証言は、金一三〇万円との趣旨にも受け取れないではない。)、被控訴人は、右代金額から前記建物の代金額を差し引いて右番号12、13の借地権の代金を算出し、これらをもとにしてその余の右番号11、14ないし16の借地権の代金を推計し、右六棟分の借地権の代金として合計金五一〇万一八三五円を主張するのであるが、右各証人の証言する代金額は、右(1)に認定した事実関係によれば、同人らと松屋不動産との間のものであり、右代金額から直ちに控訴人と松屋不動産との間の右12、13の借地権譲渡代金を認定することはできず、したがってまた、右の額をもとに控訴人が取得すべきその余の借地権譲渡代金を推計することも到底できない。

そうすると、結局、控訴人が右番号11ないし16の借地権譲渡により取得すべき対価は、前記金三〇九万一二五二円の限度でこれを認めるべきであり、被控訴人主張の金額中右を超える金二〇一万〇五八三円はこれを認めることができないというほかない。

(3)  以上によれば、前記番号11ないし16の被控訴人主張額欄記載の金額(合計金九一九万一五七五円)は、そのうち、右(1)認定の請負工事代金四〇八万九七四〇円と右(2)認定の借地権譲渡代金三〇九万一二五二円、以上合計金七一八万〇九九二円の限度で、控訴人の昭和三九年分の収入に計上すべきである。」

8  原判決三二枚目表九、一〇行目に「建築した建物六棟と」とあるのを「松屋不動産及び黒沢武ほか二名の注文により建物六棟を建築し、」と、同枚目表末行に「大谷通昭らに」とあるのを「松屋不動産及び黒沢武ほか二名に」とそれぞれ改め、同枚目裏末行に「前掲乙第四〇号証」とある次に「及び原審証人大西重三郎の証言」と加え、同三四枚目表末行に「については」とある次に「、売上高(収入)が金二〇一万〇五八三円減、」と加える。

二  そうすると、原判決は相当であり、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき行政事件訴訟法六条、民事訴訟法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 浦野雄幸 裁判官 河本誠之 裁判長裁判官小林信次は、転任のため署名、押印することができない。裁判官 浦野雄幸)

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